【K872レビュー】これ程残酷に再生するヘッドホンがあってたまるか|AKG K872,K812比較レビュー 

K872を使用していく中でK812と比較する機会が多かったため、比較レビューとしてまとめました。

K812が壊れて以来、今までHD650 DMaa を使って音の良し悪しを確認してきましたが、
最近K872を安く手に入れることが出来たので乗り換えました。

K872を7月から使って1ヶ月程経ちましたが、「むごたらしいまでに正確に音源を描写する恐ろしい・・・」というだったというのが総評です。

K872総評
装着感:良いけど重い
 (3)
作り:ハイエンドモデルとして在るまじき
 (2)
解像度:これを得るために買った
 (5)
音場:広すぎず正確に聴き取れる
 (3)
定位感:手にとるように分かる
 (5)

外観・品質

K872の外観は他のハイエンドヘッドホンと比べると

構造は最悪ですが作りはしっかりしています。


ハウジングから見える配線がパソコンの内部配線(FPC)みたいで心許無かったり、
ドライバーハウジングとヘッドバンドのフレームとをつなぐ関節部のネジ穴の底が無く貫通しているのでイモネジがすっぽ抜けないか心配になりますが、ネジ穴も緩まないように封止されているのか今の所緩む気配はありません。

しかし、構造と部品の多くをK812と共用しているため、初期K812同様の悲劇が訪れるリスクは根本的に解決できていないことは注意しておいた方が良いでしょう。

装着感

密閉型のため、つけた途端に広い映画館に来たような音の静けさになります。

K812と比べると、密閉型のため蒸れます。

耳とハウジングとの奥行きは、K812とほとんど変わりません。HD800系よりも奥行きはあります。

他のレビューでは長時間装着していても疲れないとありますが、絶対的に重量があるのでH650やK712Proのような軽量なヘッドホンと比べると普通に疲れます。
K872は特に密閉型ということもあってK812よりも長時間の装着には向いていません。

後述しますが、音質面でも耳が疲れやすいのでやはり長時間は向かないと思います。個人的には2時間が限界で、こまめに外して休憩をとるようにしています。

音質

音質ですが、リファレンスヘッドホンと謳っているだけあって音源のチェックや楽器の音決めでビシッと正解がわかるヘッドホンです。そのため、このヘッドホンは音源の良し悪しを残酷なまでに描写してきます。

K872は無機質ゆえ音色の判断がしやすい

K872の音質は、鑑賞するというよりは確認する、計測するような無機質さと正確さを感じます。

ヘッドホンの最終的な音源の聴かせ方的な調整って、職人芸のように人が判断してチューニングして決めていくものだと思うのですが、K872の聴かせ方は無慈悲な殺戮マシーンの如く容赦がない聴かせ方だなと感じました。

K812もなかなかに音源に対して容赦の無い音の再生をしていましたが、K872は更に良し悪しの現実を突きつけてくる音質でした。

一方で、ヘッドホン側の脚色が無いため、比較的素人耳の僕でも音源によっては、例えばボーカルが使用しているマイクとプリアンプがU87とNeve1073であることを当てられてしまうほどに繊細かつ正確に描写しています。恐ろしいです。

K872はギターの音作りがしやすい

個人的な話ですが、最も恩恵を受けているのがK872でのエレキギターの音作りのしやすさです。

オープンエアー型のヘッドホンで音作りをすると、生音が聴こえてしまうためどうしても生音のアタック音につられてピッキング音を削ってしまい迫力の無い音になってしまうのですが、K872は密閉型のためピッキング音が聞こえないため音作りがしやすいです。

K812は無限空間上、K872は有限空間上で鳴っているイメージ

K812を使っていたときの音場の広さを覚えた上でK872を聴くと、K872のほうが狭く聴こえるのですが、音源の掴みやすさは圧倒的にK872が上と感じました。

イメージでいうと、
壁も何も無い無限空間上に佇んで、左右にスピーカーが現れて聴こえてくる音がK812で、
吸音が徹底された広い有限空間上で大音量で鳴らした時に聴こえてくる音がK872です。

理想上の音の鳴り方を追求するならK812、現実空間での音の回り込み方、周波数のかぶり方を確認したいならK872が良いなと感じました。

K872は小さい音量では低音が多めに聴こえますが、劇場並みの音量で音源を聴けばすべての周波数帯の確認がちゃんと出来ます。

この際、広い映画館で大音量で聴いたときに聴ける、低音のうるささを感じたことが経験があるかなと思うんですが、K872でも全く同じ体験が出来ました。部屋全体が「モ〜〜」って響く所謂共鳴のようなものです。

ミキシング・マスタリングの質感が手に取るように聴こえてしまう

色々と異なる音源を聴いていった結果、ドラムとベースの周波数の不快なかぶりをK872で確認出来るようになりました。

低音が出すぎているためそのように聴こえるのかなと思ってたのですが、音源によってはちゃんと低音が出ていても各トラックが干渉しないで聴こえる音源も多数あったので、そのへんを丁寧に処理している音源と、そうでない音源をこのヘッドホンで聴き分けられるようになってしまったのだと実感しました。

他にも、年代によってこの曲古臭く聞こえるなと直感で思っていた曲が、このヘッドホンで聴いてそう思う所以がわかりました。音の硬さです。昔の音源の方が硬いんですよね。デジタル、アナログとかいう雰囲気ではなく、処理の仕方の傾向な気がします。(あくまで個人の当時の感想です。振り返ってみるとそうかな?とも思います。)

現代の音楽ではその辺の角をとっているのか、あとは昔の音源の方がラウドネスが低いのも昔の音源から昔くささを感じる所以かもしれません。

アラ探しが非常にしやすい分、耳に入ってくる情報が非常に多いためすぐ疲れてしまうので、鑑賞には全く向いていないヘッドホンだと感じました。

そして、Tame Impalaのマスタリングの素晴らしさを改めて実感しました。

余談:音圧戦争は即刻終戦すべきと改めてK872が教えてくれた

音圧を上げたいがために、低音域を削って海苔波形にした結果、カスっカスになってしまった音源を2016,17年頃に多く聴いた覚えがあるのですが、マキシマイザーの発達か、作り手の工夫なのか、低音がちゃんと聴こえている音圧モリモリ音源が最近の流行りのような気がします。

例えば、『Led Zeppelin II』の音源の各トラックが正確に聴き取れる音量に設定して現代の音圧モリモリ音源を聴いてみます。

すると、めちゃくちゃうるさいのは当然として、低音が鳴りすぎて色んな帯域とかぶってしまっているのを実感しました。

音圧を上げるということは、その音が鳴り続けている時間を増やすことであるので、低音をよく聴かせるためには低音が鳴り続けている必要があるのは当然なのですが、
低音は高音と比べて指向性が無いので回り込みやすいので、
結果として低音まで聴こえさせようとしている音圧モリモリ音源は、もはや常に低音がうるさい音源になってしまっていることをK872が伝えてくれました。

現代の音楽の聴かせ方としてスタンダードになっている?ような気がしますし、マスタリングでは小さいスピーカーやレンジの狭いイヤホンでよく聴こえるようにしていると思う(素人所感)ので、K872のようなハイエンドヘッドホンで一番気持ち良い聴かせ方をしていないのはわかってはいるんですが、個人的には音圧を上げすぎないことによる音の表現幅の方が良いと思っている派としてずっと生きてきたので、このヘッドホンが教えてくれた現状を踏まえて尚更音圧戦争は無くなるべきと感じました。(後記:急に主語でかくなってたみたいですみません。)

僕が愛して止まないジョン・ボーナムのドラムの音は、大迫力ですがそれは音の緩急がしっかりと表現されているからこそ伝わってくるからなのだということも、同じヘッドホンで比較して改めて実感することが出来ました。

K872で聴けば聴くほどに、音圧を稼ぐ以外の迫力の出し方を見出していてほしいなと思ってしまうのでした。

下記のようなK812で起きた構造的な欠陥はK872でも根本的には解決されていないので、3年保証の付いているK872-Y3のモデルを買うようにしましょう。K812についても同じくK812-Y3の方を買うようにしましょう。個人的にはK872のほうがオススメです。

おまけ:初期のK812の作りは最悪だったという話

参考までに、部品の多くを共用しているK812で体験した悲劇を紹介しておきます。結論を言うと、音が出なくなって再起不能になっています。

私の初期型K812は、開封直後からイヤーパッドが潰れたままヘタっていましたし、ハウジングとヘッドバンドをつなぐイモネジも既に緩んでいて、定期的に締めてあげないと筐体に引っ掛かって傷がついてしまう程でした。本体を振ると部品の遊びが大きいのかカチャカチャ音がしていました。

1年ほどは作りが粗悪だったものの、音質は圧倒的な解像度で、声質や音の位置の把握がしやすいことから当時愛用していたHD800を売って乗り換えた程でした。

しかし、突然左のハウジングが大きくずれてむき出しのFPCの配線をハウジングが挟んでしまうという事態が発生しました。定期的に締めてあげないと動いてしまうイモネジが緩んで外れてしまったのです。

イモネジが食い込んでハウジングを傷つけてしまっている箇所

加えて、この1ヶ月後ほどでドライバーとヘッドバンドの配線の接続部のはんだ付けが外れて音が出なくなりました。

はんだ付けされている部分は、FPCの配線ちょっとむき出しになっていて、そことヘッドバンドの配線にはんだ付けがされているというあまりにも粗悪で心許無い作りでした。

これを見た途端にハイエンドヘッドホンとしてあるまじき作りだなと憤りました。ほんとひどい。

同じ被害を受けた方のツイートがありました。

初期のK812について注意喚起

初期とはオーストリア製時代のK812を指しますが、すべてのオーストリア製に当てはまるか不安なので参考程度でお願いします。初期のK812では僕の個体でもヨドバシカメラ横浜店、町田店にあった個体でも同じ品質の悪さを確認しましたし、その後交換されたヨドバシの視聴機はちゃんとした作りだったのでやはり初期個体に見られる粗悪さだったのかなと思います。僕から言えることは、以下の通りです。

K812はオーストリア製は買わないで、スロバキア製の新品を買ってください。

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